これは俺の数少ない友人が金の魔力に憑りつかれてドンキホーテ・ドフラミンゴみたいになってしまった悲しいお話である。
資本主義社会の日本に於いて金は正義である。
金があるからと言って幸せとは限らないが、金があるに越した事はない。
金で幸せは買えないというが、金で多くの不幸は防げる。
金は欲しい。切実に。しかし...
目次
20年来の友人
彼とは学生時代に出会った。
彼の身長は188センチと大型で、ゴジラの愛称でメジャーリーグでも活躍した松井秀喜選手と同じである。
逆に体重は60キロもなく、服を脱ぐとまるでエヴァンゲリオンを彷彿させるようなガリガリボディで気持ち悪い。
髪型がずっと一緒
彼とは20年弱の付き合いになるが、髪型がずっと一緒である。
髪型も至って普通。前髪は眉毛にかかる程度、サイドは耳にかかる程度、襟足は長すぎず、かと言って刈り上げている訳ではない。
勿論髪が伸びて多少変化する事はあっても基本のフォーマットは変わっていない。
髪型の変更を提案すると興味を示すが、結局はお馴染みの髪型に落ち着いている。
風呂に入らない
学生時代の彼はあまりお風呂に入っていなかった。
本人曰く入っているらしいが、明らかに入っていなかった。
なぜなら頭がテカテカだからである。
ワックスを付けていないのに頭が異常にテカッっている。勿論髪はペッタンコだ。
しかし特に臭くはなく、こちらに被害はなかったので、あえてそれ以上は追及しなかった。
お洒落
彼は風呂に入らないくせにお洒落であった。
いやあれは奇抜と呼んだほうがいいのであろうか。
外国の女性の顔がプリントされたジーパン
彼は外国の女性の顔がプリントされたジーパンをよく履いていた。
188センチのすらっと長い脚で穿く、外国の女性の顔がプリントされたジーパンは俺たちを唖然とさせた。
今となってはあれはお洒落だったのかどうか測定不能だが、18歳の俺にはあのファッションは眩しすぎた。
ピンクパーカー
彼はいつもピンクのパーカーを着ていた。
春、秋は常にピンクのパーカーを着ていて、冬もダウンの下にしっかり着込んでいた。
さすがに夏は着てないかと思いきや、ちょっとクーラーがキツイ場所に行くと、颯爽とバックからピンクパーカーを取り出して羽織っていた。
春夏秋冬ヘビーローテーションで酷使されたピンクパーカーは色が褪せ、毛玉だらけで非常にみすぼらしかった。
なぜそこまでピンクパーカーに拘っていたのかは、現代科学でも解明できていない。
ちなみに全く似合っていなかった。
部屋が汚い
彼の部屋は汚い。
と言っても俺が綺麗好きだから、もしかしたら独身男性の平均的な部屋なのかもしれないが俺からすると非常に汚い。
感覚的には東南アジアの安宿をイメージして頂ければ分かり易いと思う。
水回りがカビだらけ
まず水回りがカビだらけである。
彼曰く部屋の湿気が酷いから致し方ないらしい。
建物の構造的に湿気が溜まりやすいのか、日当たりが原因かは謎だが、明らかに常軌を逸している。
さすがに彼もヤバイと思っているらしく、部屋には業務用の除湿器がおいてある。
どこからが業務用になるのかは知らないが、小型冷蔵庫くらいある除湿器は、業務用と言って差し支えないのではないだろうか。
業務用除湿器を持ってしても、水回りのカビは抑えられていなかった。
おそらく建物の構造的な問題なのであろう。
そんな外れ物件を引いてしまうのも彼らしい。
掃除機がない
彼の部屋には掃除機がない。
掃除機がなくてもクイックルワイパー的なもので代用できるが、それもない。
なので彼の部屋の四隅には大量の陰毛が落ちている。
長い年月をかけて蓄積した部屋の陰毛は、成人男性50人分くらいになっていると俺は睨んでいるが、彼は精々10人分だと言って譲らない。
このブログを執筆している最中も陰毛は増え続けていると思うと、なんだか壮大な気持ちになり、ドラえもんのバイバインの話を思い出す。
最低限の生活
彼は労働する事が嫌いだ。
贅沢な生活はしなくていい、その代わり労働時間を最小限に抑えたいのが彼だ。
毎月10万~15万程度のバイト代で細々と暮らしている。
都内で1人暮らしをしているが、家賃が4万程度なので切り詰めれば生活する事は可能だ。
きっと彼は吉良吉影のように、心の平穏を一番にして生きているのだと思う。
漫画喫茶でバイト
恐らく日本で一番楽なバイトの一つに数えられるであろう漫画喫茶の深夜バイトをもう10年近く続けている。
働いている漫画喫茶が潰れれば、他の漫画喫茶で働く。それも歩いて行ける範囲で探す。
彼曰くもう漫画喫茶でしか働けない体になってしまったらしい。
真面目
労働する事は嫌っているが、彼は真面目である。
一度漫画喫茶に持って行く履歴書を見せてもらって事があるが、志望動機、自己PR欄が就活生並みに埋められていた。
経験者というだけで簡単に採用されそうだが彼に奢りはない。
深夜の漫画喫茶とは言え、与えられた仕事はしっかりこなす。
恐らく真面目すぎるが故に手が抜けないのであろう。
バンド活動
彼は長い間、バンド活動をしていた。
特に人気がある訳でもなく、ライブをする度にチケットノルマがあるので赤字になるらしい。
しかし歌を歌っている時こそが、自分を表現できる唯一の場であり、それが彼の幸せであった。
そんな事をよく言っていたし、喉も大事にしていた。
声の通りが悪くなるからと煙草も止めた。
しかしそれは過去の話である。
YouTube
そんな彼が始めたYouTubeがバズリまくっている。
恐らくYouTubeを始めてから一年も経っていないがチャンネル登録者は10万人に迫る勢いだ。
ちなみ俺がYouTubeを初めて一年経った時のチャンネル登録者数は150人くらいだ。
バンドは解散
ちなみにYouTubeの内容は音楽とは全く関係ない。
YouTubeとバンド解散の関連性は不明だが、YouTubeがバスって来たあたりで彼はバンドを解散した。
聞いた話ではバンドメンバーは解散ではなく、活動休止を提案したらしいが、彼の強い意志で解散に至ったらしい。
彼は作詞作曲を担当するボーカルギターだったので、ソロで活動するのかと思っていたが、音楽からは足を洗うらしい。
久しぶりに彼の部屋に行ったら、部屋からギターは消え、部屋は煙草臭かった。
YouTubeのチャンネル登録者数こそが人間の価値
動画がバズリ収益が増えると、彼の価値観は変わっていった。
YouTubeのチャンネル登録者数こそが人間の価値と感じるようになったのか、俺の事を「一般国民」「下級戦士」などと呼ぶようになった。
なにかがあると「見せてやろう超エリートYouTuberの圧倒的パワーを!!」などと訳の分からない事を言うようになってしまっったので、尊敬の念を込めてベジータと呼んであげるのだが、俺の事は決してカカロットとは呼んでくれない。
電車でグラサン
人気者になった彼は、街を歩く時に周りがパニックになるからとマスクとグラサンを欠かさなくなった。
電車でもグラサン。夜でもグラサン。
煙草も吸い始めた。
YouTuber以外を「素人」と呼ぶようになった。
ヒカキンをヒカキンさんと呼ぶようになった。
ドンキホーテ・ドフラミンゴみたいな服を着るようになった。
しかしよくよく思い返してみると、初めて会った彼も女性の顔が入ったジーパンにピンクのパーカーと、ドンキホーテ・ドフラミンゴを彷彿させる服装だった。
よ